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2005年 12月 09日

『カル』という名の犬の話    その2

犬に付ける手綱のことを、最近はリードなんて洒落た名前で呼びますけど、10mほどにもスルスルッと伸びるあれって、自転車愛好家にはとっては怖いものです。
あの伸びたり、縮んだりするリードを持って、飼い主が犬とは反対側を歩いていたりするんですから。
犬の姿が見えているのなら兎も角、生垣にでも潜り込んでしまっていたら、スピードを落とすことなく通ってしまいます。
わたくしも何回か危ない思いをしてますから、あっちこっちで事故は起きてると思いますねえ。
『カル』という名の犬の話    その2_d0007653_18262655.jpg
こども時代を過ごした鹿児島では、犬に手綱を付けて歩く姿を見ること自体がマレでした。
雉撃ちに出掛ける小父さんたちが、ハヤル猟犬を制御するために、止むを得ず荒縄で縛る。
こんな時ぐらいでしょうか。
犬たちは山野を駆け回って遊ぶこども以上に、自由気ままに過ごしていました。
『カル』なんて、数日間の家出はしょっちゅうでした。
町中の犬の序列も決まっていて、犬と犬が鉢合わせてしも、噛み合いの喧嘩となることはありません。
どちらかの犬が直ぐに腹を見せ、もう片方が上に乗って優位を示せば一幕目の終わりです。
角を回ると二幕目が始まり、今度は先ほどの上位犬がひれ伏します。
『カル』の仰向けにひっくり返った姿は見たことがありませんでしたから、犬社会では上位ランクにあったのだと。

待ちわびていた秋田犬の『トク』が、輸送の途中の行方不明、あるいは引越し屋の横領(両親は着物など、値の張る荷物だけが届かないのをみて、こちらだろうと推測しておりました)で到着しないと判った時、『トク』の手綱を持ち出しました。
鹿児島に引っ越してからも、同じように玄関の柱に吊るされた『トク』の手綱は、こどもの手には余るような太さです。
こいつを『カル』に付けて、町中を引き回して見よう!と考えたのです。
四歳(五歳になっていたかも・・・・)のガキでも、見栄を張りたいんですねえ。
吠え声を聞いたことのなかった『カル』が、このときばかりは毛を逆立ててうなりました。
わたしの泣き声に、オヤジが飛び出してきても、『カル』の鼻筋の皴は消えません。
オヤジは一応、厳しく『カル』を叱りましたが、私が持っている手綱を見て状況は理解したようです。
鼻筋の皴が消えると、そのまま家の中に引っ込んでしまいました。
わたしの泣き声は続いておりましたけれど、もう、家の中からは物音ひとつしません。
『カル』はクルリと背を向けて去って行きます。
犬に負けた惨めなわたしだけが取り残されました。

by molamola-manbow | 2005-12-09 12:51 | 犬・猫・蛙に動植物


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