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2006年 06月 02日

越(コシ)じる

若い頃にはまるで意味をなさなかった諺が、俄かに意味をなしはじめた。
『便りのないのは良い便り』
真逆の諺として、『電話の久しぶりは要注意』などというのも有る。
共同通信社経済部の元辣腕記者は仮の姿、その真実は『新宿二丁目夜の特派員』などという異名を持つM氏からの突然の電話は、まさにそれだった。
越(コシ)じる_d0007653_842835.jpg新宿二丁目で、小さなスタンド割烹・越路を営み、われわれ呑み助から、「越路のオトウさん、オカアさん」と呼ばれていた、オカアさんの訃報である。

不義理を重ねていて「罰が当たった」と、咄嗟に思った。

・・・・・・・・・・・・話は八年前までさかのぼります。

越(コシ)じる_d0007653_11405383.jpg 一九九八年春、越路は二十三年間挙げ続けた暖簾を降ろした。
趣味の釣りに出掛けた岩場で転び、利き腕を骨折したのが引退を決意させたきっかけ。
「魚が満足に捌けなくなってね」ともらした。
引退式を総勢七十余人の"越路ファン"で開き、それぞれの思い出をつづった記念の小冊子を作った。
右に掲げたご夫婦のイラストは、その小冊子の内トビラ、アゲハ紋をあしらった左が表紙である。
私も拙文を載せた。
以下はその書き出し部分・・・・・
暗くて薄汚い、新千鳥街の路地を入ったドン詰まり。幾人もの呑ん平を転げ落とした、狭くて急な階段の上に、『スガンさん』という小さなスナックがあった。
そこで毎夜のように交わされていた言葉がある。
「さあて、そろそろ、コシジるかぁ~」
呑むほどに酔うほどに、喋喋(丁々?)と弾んだ会話にも物憂い影が見えるようになると、決まってその言葉は発せられた。

通い始めてまだ日の浅かった私は、常連客の「コシジるかぁ~」の言葉を合図に、「では私はこれで」と勘定を済ませて退散していた。
「これからの時間は、常連客だけの楽しみなのだから」と。
とある日、店主の美晴ちゃんから声が掛かった。
「またきょうも帰っちゃうの?たまには私たちと付き合いなさいよ」
"コシジる"とは如何なる意味なのか、オトウさんとオカアさんの店、越路へのデビューはこうやって叶った。



越路の常連客としては、使いっ走りに過ぎない新参者の私が、
実は引退式で、「店を継ぎたい」と言っちゃうんですよね~。
入り浸っていた『スガンさん』の店主・美晴ちゃんが急逝して行き場を失ったり、様々な要因が重なっての大胆発言でしたが・・・・・。
でも、ただ単に「料理を作るのが好き」というだけの素人に、出来るような簡単な職業ではありません。
越路の暖簾を引き継いで掲げてはみたものの、僅か三年少々で音をあげ、放り出してしまいます。
このことが負い目になり、敷居が高くてグズグズしている時の訃報ですから、反省ばかりが先に立ちます。
オトウさんにも、増してオカアさんには、合わせる顔のない葬儀となってしまいました。
子宮筋腫→子宮ガン→乳ガン→脳梗塞→腸腫瘍を、イラスト通りの大きな口で笑い飛ばして克服してきたオカアさんを、またガンが・・・・・。
この十五日が満八十歳の誕生日のはずでした。

『浄珠院看華道善大姉』、きょうが告別式です。
急なことで昨夜の通夜に駆けつけることのできた新宿二丁目の常連は二十人ほどに止まった。
きょうはもっと大勢でおくってもらいたい。

by molamola-manbow | 2006-06-02 07:37 | 酒・宴会・料理


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