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Hey! Manbow

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2006年 10月 03日

秋の夜長

連れ合いがケタケタ笑い始めた
秋の夜長_d0007653_940986.jpg何ごとかと目をやると
ア~ア 涙が出ちゃう 
立ち上がって肩越しに覗く
これよ と本を引っくり返して表紙を見せた
井伏鱒二 『厄除け詩集』
やっぱり この人 可笑しい
ティッシュで目元を拭いて
本へと戻り
こんどはクククと押さえた笑い

雨の夜 ふたりして読書は深夜におよぶ
連れ合いなのか、井伏老なのか
俺の読書は どちらかにさえぎられた


   再疎開途上
      鳥取驛のプラットホームに
      妻子と共に一夜ごろ寢する。


   おい 僕はいま何か云ったらう
   「きやあッ」と云はなかったかね
   目がさめた途端
   あのシグナルの青い灯を
   焼夷弾のはぜる光と思ったのだ
   僕は寒さで目がさめたのだ
   蚤で目がさめたのかもわからない
   おい 大變な蚤ではないか
   プラットホームには
   こんなに蚤が澤山ゐるものだらうか
   あれを御覽 あの防空頭巾をかぶつた人も
   寢ながら腕をかいている
   あそこの 鐵兜を枕元においてゐる人も
   ぼりぼり首すぢをかいてゐる
   驛長は旅客のこの難澁を氣づかないのか
   僕もここの驛長を知ってゐる
   松江の驛から今年榮轉した
   別所忠雄といふ人だ
   去年 僕が松江に行ったとき
   別所忠雄は驛の防空演習をずらかつて
   僕を骨董屋に案内してくれた
   ぼてぼて茶碗を買ふのだが
   七軒も骨董屋を歴訪し
   どの店でも薄茶を飲まされた
   おかげで僕は吐きそうになった
   おい もう一枚毛布がほしいな
   子供の枕元にトランクを置いとくかね
   さうだ 風よけの屏風だよ
   寒いなあ この風は海風なんだらう
   おい また蚤だ
   僕は田舎の家に落着いたら
   別所忠雄に手紙を出してやらう
   「プラットホームを掃除しろ
   清潔を保て」と書いてやらう
               (鳥取驛から津山に出る車中しるす)

by molamola-manbow | 2006-10-03 08:20 | カテゴリー外


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